2011年01月04日

カンタベリー・パズル

正三角形が4つの断片に切り分けられていて,ハトメを中心として回転させると正三角形が正方形に変身するというパズルをご存知でしょうか?

 正三角形を6ピースに切って並び替えると正方形に作り替えることができるパズルもあるのですが,その切断はあまりエレガントではありません.切り方を工夫してピースの個数を減らしたい・・・これは大変な難問ですが,デュドニーはわずか4ピースにして1回のハトメ返しで正三角形から正方形に移すことに成功しました.

 ハトメのうち2つは正三角形の2辺の中点にあり,もう一つの辺は0.982:2:1.018に内分され,その一方にハトメがついています.このパズルには平面充填形(タイル張り)の理論が潜んでいることに気づけばその切り分け方を見いだすことができます.以下,中川宏さんに製作してもらったカンタベリー・パズルの動作を示します.
カンタベリー・パズル
カンタベリー・パズル
カンタベリー・パズル
カンタベリー・パズル


【1】カンタベリー・パズルの切り方

 私はこのパズルをスタインハウス「数学スナップショット」紀伊国屋書店の冒頭の記事で知ったのだが,デュドニーのカンタベリー・パズルと呼ばれているそうである.

 デュドニーのカンタベリー・パズルでは,正三角形と正方形の面積は等しいことはもちろんであるが,正三角形の周は正方形の内部に移り,正方形の周は正三角形の内部の点だけから構成されているリバーシブルな性質をもっている.

 また,正三角形も正方形も単独で平面を充填できる図形であることが重要な要素になる.正三角形・正方形に限らず,任意の三角形・四角形の同じ辺を順次背中合わせにつないでいくと,平面を重なりも隙間もなしに敷き詰めることができる.

 たとえば,四角形のタイル貼りにおいて四角形の内部に任意の点をとり,隣り合う四角形の対応する点を結ぶと,別の形の四角形による平面充填に変身する.このとき互いに四角形の各辺を2等分することもわかる.四角形の内部に任意の点を選び,この点と各辺の中点を結んだ4本の線で四角形を4分割してもよい.

 四角形の向かい合った辺の中点同士を結んでハトメ返しを行うと,元の四角形によってただ一通りに定まる平行四辺形が得られる.向かい合った辺のうち1組の中点だけを結んで,残りの1組の中点からいま結んだ線に対して任意の角度で平行線を引いてからハトメ返しを行うといろいろな角度の平行四辺形が作られる.

 三角形の場合は3個の辺の中点のうち2個の中点を結び,残りの中点と向かい合った頂点を結んでハトメ返しを行うと平行四辺形が得られる.また,1本の中線に対して残りの2個の中点からそれぞれ垂線を下ろしてハトメ返しを行えば長方形が得られる.

 このように面積が等しい四角形や三角形から平行四辺形へのデュドニー分割は可能であるが,面積が等しい2つの平行四辺形同士でもデュドニー分割は可能である.平行四辺形の対角線の交点を通る任意の直線を引き,直線が交わらない辺の中点から任意の角度の平行線を引けばよい.極端に形が異なっていなければ,この方法で任意の平行四辺形同士のハトメ返しを行うことができる.

 面積の等しい三角形と平行四辺形ではそれぞれ2個ずつ使ってどちらも平行四辺形にすれば,面積が等しい2つの平行四辺形同士のデュドニー分割に帰着できることになる.

 結局,形の異なる三角形や四角形のあいだであっても,それらの面積が同じならば何回かのハトメ返しで一方から他方へ移すことができるのである(ボヤイ・ゲルヴィンの定理→ハドヴィゲール・グリュールの定理).

 正三角形を6ピースに切って並び替えると正方形に作り替えることができるパズルもあるのだが,その切断はあまりエレガントではない.切り方を工夫してピースの個数を減らしたい.これは大変な難問であるが,デュドニーはわずか4ピースにして1回のハトメ返しで正三角形から正方形に移すのに成功したのである.その切断法については次回にまわすことにしたい.

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【2】カンタベリー・パズルの応用
 デュドニーのカンタベリー・パズルは正三角形をそれと等積の正方形に直す問題ですが,正五角形や正六角形を切り刻んで正方形に再構成する仕方も知られています.また,正六角形をいくつかの小片に切り離して並び替え正八角形をつくることや星形を正方形にかえることも可能です.

 カンタベリー・パズルは「平面ハトメ返し」による分割合同なのですが,立体の2つの断片のどれかの辺を蝶番でつなぐことによって「立体蝶番返し」を考えることができます.菱形十二面体や切頂八面体はよく知られた空間充填立体ですが,実際,菱形十二面体と直方体の間の立体蝶番返し,切頂八面体と直方体の間の立体蝶番返しなど空間充填形同士の蝶番返しが作られています.

 さらに,正方格子やカゴメ格子などのタイル貼り図形において,個々のタイルが板でできていてそれぞれの頂点がハトメでつながっている場合,図形を回転させると隙間のある新しいタイル貼りが生まれ,90°回転させたところで元のタイル貼りに戻ります.このハトメつきのタイル貼りもカンタベリー・パズルの応用の1種と考えることができるでしょう.
カンタベリー・パズル
カンタベリー・パズル
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http://www.geocities.jp/ikuro_kotaro/koramu/556_k1.htm



Posted by オボノボノ at 11:15│Comments(0)
 
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